いじめ、不登校を出さない学校教育
全国ICTカウンセラー協会
安川雅史
■真の「心の教育」とは?
学校の教師というのは、教員採用試験に通っていても、「心の教育」ができるか否かなどを判断されて教師になったわけではありません。大学ではそういうことはまったく教えない上に、採用試験も面接とペーパーテストだけです。 結局勉強というのは、子どもをやる気にさせることではないでしょうか。教師の授業などに感動がなければ、子どもにやる気が起こるわけがありません。また、教師に生徒を引きつけるだけの何らかの魅力もなければなりません。それには、いかに教師が褒め上手になるかということが大切だと思います。しかし、生徒を褒めたり、やる気にさせたりすることができず、単に自分の担当の教科だけを教えている教師のなんと多いことでしょうか。中学・高校を見渡しても、そういう教師が大部分を占めているので、真に「心の教育」ができる教師が増えてくれば、日本の教育も変わっていくことができると私は思っています。 現在は、さすがにそうした反省に立って、さまざまな制度が生まれてきています。その一方で、形骸化がなされ、本質的な「心の教育」には至っていない制度も多々あるようです。たとえば、ボランティア活動を必修にするとか、教師も学外に出て何時間か社会の勉強をしてくるとか…。そういうものは本来、強制されて行うものではないはずです。ボランティアは、自らの意思で行って初めて「ボランティア」といえるのであって、強制されてやる行為は決してボランティアとは言いません。生徒の心理面をケアする「スクールカウンセラー」を学校内に入れるにしても、さて彼らが実際にどれだけきちんと機能しているでしょうか。悩みを抱えた大勢の生徒がいる中で、退職した年配の教師OBや、校長を歴任した人たちがスクールカウンセラーをやっても、果たして期待された効果を上げることができるのかどうか。若い生徒たちの悩みなどには、なかなか対応しきれないのではないかと思います。さらに言えば、一般にスクールカウンセラーは常時学校にいるわけではありません。ほとんどの場合、週に8時間などと決まっているわけです。しかし、子どもが相談したいと感じる瞬間は、週8時間の決められた時間内にやってくるとは限りません。悩みを抱えて切羽詰まった子どもが、「今日はスクールカウンセラーが来ている日だから、相談でもしてみようか」という悠長な状況はほとんどないといっていいのです。にもかかわらず、常時相談できるというのではなく、決まった時にしか相談できない。その上、スクールカウンセラーも各校に1人という状態です。つまり、相談したい子どもがたくさんいても、この制度によって彼らの対応が十分にできているかというと、できていないというのが実情なのです。結局、形式だけの「心の教育」が喧伝されるだけで、真の「心の教育」は行われていないのです。
■「ゆとり教育」と教師の自覚
ここで授業の進め方について、一つの提案があります。現在、「英語」「数学」などの教科ごとで時間割がされ、その教科の授業だけを50分の間全部を使って行っています。しかし、その間に、生徒の心をつかむことができる話題が教科と関係なく出てくれば、あえて時間を割いてでも取り上げた方がいいのではないかと私は考えています。政府は「ゆとり教育」を声高に提唱し、教科のカリキュラムばかりどんどん減らしていますが、その「ゆとり」をいったいどのように活用するつもりなのでしょうか。教科以外でも、子どものためだと思えば、そのために時間を割くだけの「ゆとり」があってもいいのではないかと考えます。教える側にそうした教育制度の変化に対応するための問題意識がなければ、新しい制度が導入されたことがまったく意味のないことになってしまいます。また、生徒たちは毎年中学・高校へ入学してきて、どんどん入れ代わっていきます。それに合わせて教師たちも成長していかなければならないはずですが、大部分の教師は、自分の考え、自分の世代の価値観にとどまりがちです。その結果、生徒と教師の間の溝がどんどん深まり、子どもたちのことが分からなくなってしまう教師が増えているのです。教師自身が今まで以上に教育の向上のために努力を行うのと同時に、制度的にも、たとえば適切な勉強会を義務づけるなど、何かしらの対策を立てる必要があると感じています。
■学校全体で生徒に目を配る
「担任制」というものにも弊害があると思います。1つのクラスを1人の担任が受け持つだけでは、生徒は実質上、担任の教師だけにしか相談がすることができません。ましてや、その担任教師があまり教育に熱心でなかったり、経験不足や心理学などの知識の少なかったりしたら、子どものことを理解することができない恐れもあります。そうなると、子どもは学校で誰にも相談することができなくなってしまいます。子どもにしてみれば、体育の先生が好きで、その先生の方が相談しやすいという子どももいるかもしれませんし、となりのクラスの先生の方が、自分の悩みについて適切にアドバイスしてくれるのではないかと感じていたり、何となく話しやすいと感じている場合もあるでしょう。やはり人間同士ですから、相性というのがあるのです。ですが、担任制という制度は、「これだけの生徒のことはあなた(担任)が責任を持ってやりなさい」といって、さまざまな素養を持った教師を十把一絡げに扱い、その1人ひとりに、クラス単位で生徒たちを機械的に割り当ててしまう制度なのです。これは教える側の「怠慢」とも言えるし、また、責任主義の悪い形だともいえると思います。この制度では、いじめ問題などが起きても、「担任任せ」になってしまわざるを得ません。現行のやり方では、うまく生徒の問題に対応できないことも多々あるのです。 生徒のことを一番よく知っているのは担任の先生。それはそれでかまいませんが、さらに教師全員が、学校全体で1人ひとりの生徒に対して取り組んでいく姿勢が必要だと思います。これは、生徒全員に気を配れ、ということでは決してありません。「あの生徒は○○先生が担任している生徒だから」と、はじめから眼中に入れないような態度は改めましょう、と言っているだけなのです。そうすれば、教師の誰かしらが、なんらかの「危険信号」を出している生徒のことにもっと早く気づき、その生徒の担任と相談したり協力したりするなどして、問題を解決に向かわせることができるはずなのです。いずれにしろ、生徒の自殺といった事件が起こった時、「いじめの事実については学校側で把握していなかった」、「そんな様子はなかった」などという教育者の言葉は、これ以上聞きたくありません。
教師1人ひとりが心がけるべきこと
教師のあるべき姿について、もし少し掘り下げていきたいと思います。まず、教師の間でも、いま以上に勉強会などが必要ではないでしょうか。たとえば、他の教師の授業を見る機会を多く作る。現在では、そういう機会は一般的にいって少ないのが現実です。しかし、実際には参考になる授業を行っている教師がたくさんいるのです。ですから同じ学校内だけではなく、できればいろいろなところに出向いていってでも、自主的に勉強するという姿勢が教師に必要です。安川雅史が高校教師だった頃、教師のための勉強会という機会はあまり多くはありませんでした。1年間に1~2回ほど、授業研修といった形のものがあるだけでした。この点は、どこの学校でもあまり変わらない状況だと思います。教師というのは、いつの間にか自分は教える立場だという姿勢が染み付いてしまって、批判されるのが嫌いになってしまうものなのかもしれません。自分の授業を見られるのを嫌がる人も少なくないのです。こうした態度は、教師としての成長を自ら放棄してしまうようなものだといえるでしょう。
生徒との相談は慎重さを要する
教師は、生徒から相談を持ちかけられた場合、常に慎重な対応を求められます。細かなことを言えば、生徒の話を聞く際に、ペンとメモ帳を取り出し、逐一メモを取るようなことはやめるべきです。教師がメモを取れば、生徒は何か調書を取られているような思いに駆られ、教師に対し大きな警戒心を持つ要因になってしまいます。生徒の相談を受ける際には、単に「聞く」のではなく、生徒が本当に言いたいことを「聴き取る」姿勢が大事です。特に、心の弱い子どもの場合、ペン先のようにとがったものを向けるだけでも心を閉ざしてしまうことがあるのです(ペンは、心の弱い子にとっては凶器と映ることことがある)。ですから、教師が子どもの話を聴く時は、子どもの目線で耳を傾けて、心で聴くことが大切です。メモなどに集中していると、子どもの大切な言葉を聞き逃すこともたくさんあります。また、「転移」という心理的現象にも注意を払う必要があります。転移とは、ある個人が別の人間にあらかじめ持っていた感情を、教師やカウンセラーなどに投影し、その投影した相手に対し恋愛感情を持ったり、攻撃的になったりすることです。反対に、投影を受けた教師やカウンセラーなどが「逆転移」という心理的現象を起こし、転移によって愛情を寄せてきた相談者に恋愛感情を持ってしまう、ということもあります。こうしたことは、教師と生徒の間で常に起こる危険性が潜んでおり、教師は特に注意していなければなりません。
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事例1 リストカットをした女子生徒が男性教師に転移
ある新人の高校教師(25歳・男性)と担任している生徒(17歳・女性)のケース。
女子生徒の左手首には、無数のリストカットの痕があり、女子生徒はそれを教師に見せたことから起きた事件。男性教師は、自分を頼っているのだと思い、いろいろと相談にのってあげ、昼食などにもつれていってあげたという。すると、その子はだんだんとその教師にだけ甘えるようになり、その教師の言うことをよく聞くようになった。しかし、その教師が他の生徒と話していたり、自分の相手をしてくれる回数が減ると、生徒の様子が少しずつ変わっていった。その後、その生徒は担任の新人教師からカッターを借り、学校のトイレで左手首を切り、自殺を図ったのだった。
このようなケースの場合、教師は、真剣に親身になって対処したのだと私は思います。しかし、実は間違いだらけの指導だったといえます。まず、生徒がリストカットの痕を見せるという行為は、「自分を受け入れることをお前はできるのか?」というメッセージであり、決してその教師を信頼して見せているのではないのです。さらに、そのような子は、「転移」を起こす確率が極めて高いことを教師は知識として持ち合わせておくべきです。たとえば、父親や以前付き合っていた恋人にわだかまりを持った女子生徒が男性教師に相談を持ちかけたとします。相談をしていくうちに、生徒は教師を父親や元恋人とダブらせてしまい、自分のわだかまりを彼らに直接打ち明けているという錯覚に陥ることがあります。そして、そのことが生徒の気持ちに作用し、父親や元恋人へのわだかまりが消えていく場合があるのです。もちろんここまでは、決して悪いことではありません。しかし上記の新人教師のケースでは、相談にのるだけでなく、女子生徒を昼食に連れていくという過度の対応をしたことが、結果的に生徒の転移を引き起こし、そしてその後の極度の甘えや、自殺未遂まで誘発させています。転移を起こしてしまった生徒にとってみれば、相談にのってくれた教師は自分だけのものと思えてしまうようになるのです。しかし、その生徒の思いに反して、教師が普段と変わらない様子で振舞うと、生徒の中で裏切られたという気持ちが勝手に増幅してしまい、今度は教師に迷惑をかけてやりたいという思いに駆られるのです。このケースですと、教師に貸してもらったカッターで自殺未遂を起こすという行為で“復讐”に走ったと考えることができます。この新人教師が軽率なのはそれだけではありません。リストカットの痕がある子にカッターを貸すという行為は無神経も甚だしいことです。では、こうした場合、教師はどうすれば良いのでしょうか。まずリストカットの痕を見せられたら、その生徒の親にすぐに連絡を取り、話を聞くべきです。そして、その生徒がリストカットを始めた時期、原因、状況などについて、自分の納得がいくまでしっかり聞いておくのです。その後は、この生徒の問題を自分1人で抱え込むのではなく、親から得た情報をすべての教師に話し、教師全員で指導するように心がけるべきです。さらに、先ほども触れましたが、このようなリストカットの経験を持つ生徒に、カッター、ハサミなどの刃物類を絶対に貸してはいけません(転移を起こした生徒は、決まって恋愛感情を持った教師に借りにくることを忘れずに)。同時に親には、精神保健福祉センターや日本臨床心理士に相談に行くように勧めるのがいいでしょう。精神保険福祉センターでは、行為障害、人格障害、ひきこもりなどの問題に関して、面接や電話による相談を行っています。加えて、専門の医療機関の紹介も行っているので、ぜひ活用してほしいものです。さて、この事例では、幸い命を落とすまでに至らなかったものの、一歩間違えれば、子どもの命に関わる重大な事態を引き起こしかねませんでした。こうしたことについて、教師はよく注意し、勉強しておくべきです。
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ネット問題の専門家であるネットいじめの専門家の安川雅史氏と東北大学教授の川島隆太氏の監修によるパンフレット。ネット依存やネットいじめなどの事例によりインターネット利用の危険性を示すとともに次の3つの対策について周知啓発します。